金を貸してくれと言われて断ってしまう無職
20日に予定していた相談を受ける話が、急遽今日になった。
専門学校時代の友人との久々の会話。
通話とはいえ最後に話したのは2021年だったから、2年ぶりだった。
なんだかんだ昼からソワソワしてしまい、落ち着くために午後3時頃から酒を呷っていた。ハイボールを2リットルほど飲んだあたりでLINEに通話がくる。
「もしもし、聞こえる? ちょっと待って、酒作ってくる」
「わかった」
俺はどんな通話でも、繋がった直後に酒を作りに行く。
意識したことはなかったが、シラフでは人と話せないのかもしれない。
戻ってきてしばらくは、お互いの近況報告が続いた。
久しぶりのはずが、この前通話したのが昨日のように思える内容だった。
相変わらず友人はゲイで、人を見る目がなく、話すことといったら彼氏と別れるとか彼氏ができたということばかりである。
「彼氏と別れることになって引っ越そうと思うんだけど、1月にコロナになって、2月にインフルエンザになったから金が足りないんだよね」と友人が切り出した。
「14万円借りられない?」
俺は断った。
友人には世話になった。
東京のアパートに住んでいる頃、俺の家には風呂がなかった。
毎日友人の家に借りに行き、風呂に入ると酒を飲みたくなり街に繰り出そうと誘った。
午後5時からやっている店で飲み始め、午前5時からやっている店でシメる生活が2年ほど続いた。
思えば俺の肝臓はこの時期に完成したのだと思う。
最初の8ヶ月は俺も働いていたから、風呂を借りるのは銭湯に行けないときだけだったし、居酒屋の勘定は割り勘だった。
そのうち俺は仕送りで生活するようになり、全面的に彼を頼るようになった。
彼が売り選で身体を売って帰ってくると、「飲みに行こう」と誘った。
朝まで飲んで帰って寝て、起きると風呂に入りに行ってまた飲んだ。
彼への借りは14万円では足りない。
俺は来月29歳になる。
彼は今年31歳になるという。
今でも彼氏にたかられていて、彼氏と同棲するための引っ越し費の7割を出し、本業とは別にゲイバーで働いてまで世話をしていたのだという。
この記事で理解ある彼くんについて触れたが、彼は紛うことなき理解ある彼くんであり、俺もその恩恵に預かっていた時期があるということだ。
「お互いこれからは自分のために生きよう」と俺は言った。
「とりあえず来年1年いっぱいは自分のために時間と金を使ったほうがいい。普通に生きるどころか、ダブルワークしている身で浪費癖もないのに、経済的に困窮しているのはおかしい」
「だよねぇ」
「今14万円は出せない、申し訳ない」
「他の人にあたってみるよ」
彼は誰にでも人当たりがよく、男女問わずモテる。
今夜副業であるゲイバーに出勤し、そこのママに頼んでみると言っていた。
ママは自分から「貸そうか?」と言ってくれていたらしい。
おろらくママは金を貸すだろう。
そして彼は期日までに必ず金を返す。
今までもそうやってきたし、これからもそうしていくだけのこと。
俺になにができた?
太宰治がグッド・バイを書ききれなかった理由は、この問に答えられなかったからだと思う。