介護事故と隠蔽癖
今日職場で介護事故が2件あった。
両方とも俺は関わっていないところで起こった事故である。
人員の入れ替わりが激しい現場だと、どうしても報連相がおろそかになり厳守すべき事柄がなあなあで済まされる。
派遣、パート、正社員で温度差はない。
みんな早く帰りたいなあと思いながら仕事をしているのが傍から見ていて分かる。
俺に教えているときには一応「教えています」という態度をとるが、直近で10人は人の入れ替わりがあったそうだから、指導業務でさえ漫然と行われる。
俺はそういった態度に敏感である。
なぜなら俺が今までやってきた仕事では、漫然と作業していると怒られたし、怒られる側だったから。そして何よりボーッとしていると危険だった。
軽作業の日雇いをしているときに、解体現場で壁面から突出しているボルトに気づかずに何度頭をぶつけたことか。
ヘルメットがなければ血まみれになっていた。
見守り厳守を怠り車椅子より転倒、顔面を強打する。
1件目の介護事故。
認知症ガンギマリ状態で立位不能にもかかわらず1分おきに車椅子から立ち上がろうとする利用者がいた。
本来は精神科案件だが、すでに崩壊している日本の高齢者福祉業界では介護施設に送られてくる。
俺はまだ仕事を覚えていないから、基本的にこの人の見守り要因として働いている。
なにせすぐに立ち上がるので、車椅子乗車時は常に一歩で手が届く距離にいなければならない。
俺が休憩中、代わりに見守りをしていた職員が目を離し転倒した。
看護師は激怒。
「なんでちゃんと見てなかったの!」
そりゃ他に50人見なきゃならないからね。
食事介助中喉をつまらせる。
嚥下機能が最悪なのにも関わらず、食物を口に入れながら常に喋る利用者がいる。
それでも職員が細心の注意を払いながら食事をあげていたのだが、運悪く詰まらせてしまった。
看護師は激怒する。
感動したのが、介護事故を起こしてしまった職員はその日出勤している人全員に謝っていたことだ。
入職したばかりの俺にすら頭を下げていた。
この人たちはなんて立派なのだろうと思った。
俺から見ると今回の事故は必然である。
介護の仕事とはつまり、放っておけば3日で自然死できる人間を強引に生かすことだ。
日本において『ジョニーは戦場へ行った』は美談であり、どんな状態であろうとも1秒でも長く生きながらえることこそがすべてなのだ。
生きることに関して、長生き以外の倫理規範を持っていない。
近年ピンピンコロリなる概念をようやく生み出したけれども、往生際の悪さたるや。
怒られることを極端に嫌う
俺にすら謝ってきた職員を見て思った。
俺に同じことができるだろうかと。
俺は隠せるミスなら隠す人間だった。
他人から怒られることを極端に回避する癖がある。
怒られることが好きな人間はいないから、それ自体を嫌うのは普通だと思う。
しかし俺の場合は怒られる前から人の顔色を伺い、怒られないためだけに行動する。
どんな人間でも必ずミスはある。
ミスをしたときに怒られないで済ますにはどうしたらいいだろうか?
普段から媚びを売るのである。
俺は上司先輩に貢ぐ。
今までの職場でもビール券やゲーム機、酒、現金、あらゆるものを駆使して機嫌をとってきた。
おそらくは人格形成の段階で間違いがあったのだと思う。
常に怒られることを警戒して生きてきたから、怒られた回数自体は少ない。
けれども今まで怒られたすべての情景を覚えている。
寝る前に思い出して頭を抱えるというやつだ。
介護現場で重大事故を起こして黙っていたら犯罪になるから、今度こそこの癖を直さなければならない。
俺にできるだろうか。